「舞鶴は天気が悪い」と嘆く人も多いが、雨に洗われた新緑の美しさには目を見張るものがある。そして新緑の時季、若狭湾の海底は色とりどりの海藻で覆われる。これもまた、雨水が大地から海へともたらす栄養の恩恵といえよう。山の緑に鳥たちが憩うように、海藻の森が魚たちの格好のすみかになることは言うまでもない。雨の恵みに感謝しつつ、若狭の海の幸を堪能する心の余裕が欲しいものだ。
手元の『日本の海藻』という本によれば、我が国には1400種類の海藻があり、これは世界でも屈指であるとのこと。これら海藻の多くは、日本各地で食用にされている。海藻は、持っている色素の種類によって、紅藻、緑藻、および褐藻に分類される。ちなみにアサクサノリは紅藻、ワカメは褐藻である。食品のイメージと分類群とが異なるのは、生きているときの色素をもとに海藻が分類されているからだ。
代表的な食用海藻の一つに、マクサがある。寒天の材料となるテングサとは、通常このマクサを指す。ということを筆者が知ったのはごく最近のことで、京大農学部の豊原先生から、「実験所の前にテングサが生えているかどうか確かめて」と頼まれて、『日本の海藻』と自分で撮った水中写真とを見比べつつ学んだことだ。
身近な海にテングサの存在を知った筆者の頭には、夏場に頂くところてんのことが浮かび、にわかにテンションが上がった。「子供の頃は断然、黒蜜がけが好きだったけれど、今や酢醤油味も捨てがたいな。きっと、生の海水味もそれなりイケるに違いない」なんて思い、つい生のマクサを引き抜き、かじってみたが、これは味気なかった。海に生えるマクサから、ところてんができるまでには長い工程があるらしく、それを飛ばすような横着はしない方が良いようだ。しかも、引き抜いたマクサには、釣り餌に使うようなゴカイがからまっていて、もう少しで一緒にかじってしまうところだった。魚の心に近づくのもほどほどにしておこう、と反省した初夏の海の中での出来事であった。
写真=紅藻のマクサ(手前)と緑藻のアナアオサ(右奥)。舞鶴市長浜の水深30センチにて2009年4月29日に撮影
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