ダイビングにのめり込み始めた大学2年生の頃、伊豆半島の南端に浮かぶ神子元(みこもと)島周辺で潜る機会があった。その際、岩の隙間から湧き出るようなイサキの大群に感動した帰り、スーパーで売られているイサキが1匹1000円と学生にはとても手の届かない値段であるのを知り、「どうしてあんなにたくさんいる魚がこれほど高いのだろう」と思ったのが、魚の生態と値段を結びつけて考えるようになったきっかけである。
若いイサキには、くっきりとした縦じまがある。ちなみに魚で縦じまとは、頭からしっぽにかけての線をさす。この縦じまは成長すると薄くなり、25センチを越えるイサキでは、全体がぼんやりとした茶色となる。同様のことはイシダイの横じまについてもみられ、稚魚のうちはくっきりとしていた横じまが、大物のイシダイでは全体が黒ずんだ色合いとなる。では、若い頃のしま模様が何の役に立っているのかというと、群れでいるときに魚同士が重なって見えるようにして、捕食者の目をあざむくため、ということらしい。大きくなった魚は、群れで敵をあざむく必要もあまりなくなるのだろう。
冠島周辺で潜っていると、学生の頃に伊豆で見たのと同じくらい濃密なイサキの群れに出会うことがある.しかし、イサキのいる場所は限られていて、ある程度の深さの根に集中しているようだ。決して無限にいるわけではなく、岩から湧き出るわけでもない。
夏場のイサキは、文句なしにおいしい。舞鶴には、イサキを専門に狙う1本釣りの漁師さんもいる。そしてこの時季、最も高価な魚の1つとして、鮮魚店に並ぶ。刺身でよし、焼き物でよし。形や生態から想像される通り、マダイを少しマアジっぽくした風味であると思う。この20年間、イサキの研究をしてきたわけではないが、幾度となくこの魚と水中で出合い、そして食卓で再会を果たしてきた筆者なりの結論。夏場のイサキは、1匹1000円以上の価値がある。
写真=舞鶴市冠島のさらに沖、小島南のイサキの群れ.2005年10月に撮影。それまで整然としていた群れが入り乱れたと思った瞬間、向こうからブリの群れがやってきた
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