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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩9
−「オニオコゼ」−
注射針より危険な輩

12月に入って間もない頃、同僚の上野さんが、「注射針が海岸に沢山落ちてたから、潜るときは気をつけて」と教えてくれた。不法投棄されたものが、ここ数日の強風で流れついたものだろう。ひどいことをする人がいるものだ、と憤慨しつつ海底に注意して潜っていたら、ある意味注射針より危険な輩(やから)を見つけた。  その名もオニオコゼ。背中にずらりと並んだとげには、どれも強烈な毒が仕込んである。しかも普段は砂に潜っているから、気づかずにつかんだり踏んだりしたらえらいことになる。写真の彼女も、見つけたときはひそんでいたが、失礼ながらナイフでほじくって出てきてもらった。オコゼの分際で、カメラ目線を送ってくれるのがいじらしい。  一般にオコゼと言えば、このオニオコゼを指す。白身で刺身によし煮付けによし、また唐揚げは絶品だ。がしかし、不細工の代名詞のように使われる節もある。九州の漁師さんはおかみさんに叱られたとき、「そげんオコゼごっつ顔して怒るな」とたしなめるのだそうだ。オコゼのような、と言われると、怒る気も萎(な)えるのだろうか。  瀬戸内や九州ではこのオニオコゼの栽培漁業に力を入れていると聞く。今年の「全国豊かな海づくり大会」は長崎県で催されることになった。この大会には毎年天皇がお越しになり、手づから魚を放流する。一昨年、京都府で催された折は、アカアマダイを放流され、典雅な和歌を詠まれたことをご存じの方もあるかと思う。  そして今年の長崎県。オニオコゼをそのイベントに起用しよう、という意見も出たが、「あまりに危険だ」ということで却下されたそうだ。オコゼに刺されないようドキドキしながら放流するのも、また佳(よ)い歌が詠めそうな気がするのだが,そうはさせて貰えないのだろう。
写真=体長15センチのオニオコゼ。撮影地は長浜、水深4メートル
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