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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩91
−「ダイナンギンポ」− あなどりがたく美味

 今年の夏前、知人のそのまた知人から、「福井県の高浜で釣ったスズキの胃袋から、ウナギのように細長い魚が出てきたけれど、何だろうか」という問い合わせを受けた。電話で対応している間は思い当たらなかったが、電話を切ってすぐに顔が浮かんだのが写真の魚である。その釣り師に追って「ダイナンギンポではないでしょうか」と連絡して写真を見てもらったところ、これに相違ないとのことだった。  ダイナンギンポは、海藻の繁茂する浅い岩場でよく見られる魚だ。舞鶴湾内では、春先には5センチほどのひょろりとしたのをしばしば見かけるし、また20センチほどの大物にもほぼ1年を通して出くわす。近づいてもあまり逃げず、泳ぐというよりは海藻をぬうようにしてはい回るので、タモ網があれば簡単にすくえるが、手づかみにしようとしたら、想像通りにゅるりと指をすりぬける。おそらくスズキのような魚にとっては、格好の餌となるのであろう。  世の中にはこういう長い生き物が苦手な人が結構いるようで、そうした向きからはにらまれるかもしれないが、この魚、あなどりがたく美味な魚である。「天ぷらは特においしいですよ」という大学院生の福西君が、自ら釣って揚げてくれたダイナンギンポの天ぷらは、確かに最高だった。  見慣れない魚に遭遇した際、「食べられる魚か?」という問いがまず浮かぶ。大抵の魚は工夫次第で食べられるが、旨い魚と、それほどでもない魚が当然いるし、毒を持つ魚もいる。そんな中、若狭湾のかぐわしき海藻の森をすみかとし、そこに動き回る小エビを主食とするダイナンギンポは、確かに旨いし、このダイナンギンポを食べて肥えたスズキもさぞかし旨かろう。若狭湾の健全な食の連鎖に思いを馳せる晩秋であった。
写真=天ぷらにして食べ頃な体長18センチのダイナンギンポ。舞鶴市長浜の水深2メートルにて、2006年3月に撮影
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