どこの海にもいて、地味ながらもファンの多い魚に、トラギスという名の魚がいる。見た目はキスよりもハゼに似ているが、キス釣りをしていると時々釣れて、模様はトラみたいだから、トラギスという名がついたのだろう。トラギス科の魚の中でも、若狭湾で潜水中、砂底の海底でしばしば見かけるのが、クラカケトラギスだ。馬の鞍をかけたようなV字形の模様が特徴である。小さなエビなどを主食としている。
若狭湾にはこのほか、コウライトラギスやオキトラギスといった種類もいる。いずれも冬場の底曳き網漁で大量に漁獲されることがあり、そんな日は、びっしりと並んだトラギスがひとパック100円のお値打ち価格で店頭に並ぶことになる。「トラハゼ」として売られているのを見たこともあれば、単に「鮮魚」とされていることもある。どちらかというと、軽い扱いである。しかし、エビを食べている魚が、旨くないはずがない。白身で淡白な味わいがあり、天ぷらなどにすると、かなりいける。
トラギスについてこれ以上は思いつくことがないので、トラつながりで、トラフグについて語らせてもらおう。若狭湾にもトラフグがいる。しかし、なにぶん数の少ない高級魚であり、また沖合の流れの速い海域にいるようで、潜水中にトラフグと出会ったことはない。春先に舞鶴市田井の定置網漁船に乗せてもらった折、漁獲物にトラフグが入っていたことは何度かある。漁師さんは実に丁重にトラフグを扱っていた。活かしたまま下関へ出荷すれば、大変高くで売れるからだ。我が国で漁獲される天然のトラフグは年間600トンたらずであり、その80%もが下関に送られるのだそうだ。
かく言う筆者もこの秋、下関を訪れる機会があり、歴代の首相が来店するという評判のフグ料理専門店の前で写真を撮ったが、中に入ってフグを食す時間と予算は残念ながらなかった。舞鶴市内の鮮魚店に並ぶトラギスあたりをありがたくいただくのが分相応と心得て、寅年の新年を迎えたい。
写真=伊根町カルビ浜の水深11メートルで2001年6月に撮影したクラカケトラギス
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