海に潜っていて、「何だこりゃ?」と思う生き物に出会うことがときどきある。そんな際は、とりあえず写真を撮っておいて、あとで名前を調べる。安全そうな生き物だったら、触ってみることもある。食べてみる、という人もいるようだが、筆者はやらないようにしている。
最近の「何だこりゃ?」が、写真のアワダチフシエラガイである。貝と名がつくが、ウミウシの仲間だ。水中でちょっと観察して、おそらくウミウシの一種だろう、ということはわかった。写真の左側にはツノがあるので、そちらが前だということもわかる。それにしても、体長は18センチほどあってかなり大きく、全身に散らばるぶち模様は派手な蛍光ピンクである。少なくとも、冬の舞鶴湾の海底に似つかわしいデザインではない。図鑑で調べると、やはり南方系のウミウシであった。通常はサンゴ礁にいる種類で、「本州では極めてまれ」とある。
インターネットで検索したところ、本種の名前で出てきた画像はごく少数で、しかも小型の個体が多い。サンゴ礁にはおそらく本種の天敵もいて、大きくなる前に食べられてしまうのだろう。写真の個体は、小さいうちに対馬海流に運ばれて舞鶴湾までたどりつき、通常ならば寒くて死んでしまうところ、近年の妙に暖かい海水温のおかげで生き延びたのだろう。しかも舞鶴湾の魚たちはこの見慣れない生き物を見て「何だこりゃ?」と通りすぎるので、食べられずにすみました、というのが筆者と出会うまでの素性と見た。
今年は国連の生物多様性年だそうで、生物の多様性に関する会議が各地で開催される。それにあわせて、海の生物のドラマチックな映像を集めたOceansという映画が公開され、その中には巨大なホオジロザメと泳ぐダイバーの映像もあるようだ。水中散歩の最中にホオジロザメに出会ってみたい気もするが、その日で筆者の人生が終わってしまう可能性もある。とりあえずは、奇妙なウミウシとの遭遇くらいで満足しておこう。
写真=2009年12月に舞鶴市長浜の水深4メートルで見つけたアワダチフシエラガイ。体長18センチ
|