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京大水産実験所・益田玲爾さんの若狭湾水中散歩96
−「ベニクダウミヒドラ」− 美しい触手で餌を待つ

 水温11度を境に、これより水温の低い海ではめっきり魚が少なくなる。それに替わって目につくのが、魚以外の様々な生き物である。若狭湾にいる多くの魚は、水温11度以下では活動が止まってしまうため、これらの魚につつかれる心配のない低水温の環境で、底性生物の動きがにわかに活発になる。  写真の生物は、ベニクダウミヒドラといって、植物にしか見えないかもしれないが、ヒドロ虫と呼ばれる動物だ。分類の上からは、クラゲやイソギンチャクと同じ刺胞動物の一員になる。イソギンチャクの原始的なものだと思えばよい。花弁のように開いた部分は触手であり、これで流れてくる動物プランクトンを受け止め、餌にしている。陸上植物の花びらは、主に昆虫をひきよせて授粉を促すためのものだが、それとは似て非なるものといえる。  水中では、陸上と違い、じっとしていても餌が流れてくることが多いので、動かない動物が案外多い。ナマコもウニも多くの貝類も、あまり動かない横着者だが、それでも海の中では生きていける。  ヒドロ虫の触手にそっと指を触れると、すばやく縮む。「似たようなものを最近映画で見た」と思う方もいるだろう。映画『アバター』では、物語の舞台となる惑星パンドラの原生林で、巨大なヒドロ虫やイソギンチャクを思わせる生物が自生していて、主人公が手で触れては引っ込ませて遊ぶ場面がある。惑星パンドラの重力が地球よりもはるかに弱いという設定は、海洋生物のような動物が陸上で棲息するのに適しているという点でつじつまがあう。  映画やテレビの中では、普通では見られない美しい映像を見ることができる。しかしその原型となるものは、ごく身近にも存在する。造られた美に溺れるあまり自然の中に潜む美を見失うことがあってはならないと思う。
写真=2004年3月に舞鶴市長浜の水深3メートルで見つけたベニクダウミヒドラ。触手を開いた直径は2センチ、高さ5センチほど
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