ヒトデは人の手のひらのように5本の腕があるのが普通だが、写真の種類のヒトデは腕の数が多いため、ヤツデスナヒトデという名がついている。本種の腕の数は、7本から10本の範囲で変異するというが、若狭湾でこれまでに見た範囲では、9本腕の個体が多い。
似たような名前の生物に、庭の日陰に植えられる巨大な葉の植物のヤツデがある。筆者の祖母の家の庭にもあって、「葉が八つに分かれるからヤツデ」と幼い頃に教わった気がする。しかしヤツデの葉はそもそも原則として奇数に分岐し、9枚に分かれた葉が多い中に、5枚あるいは7枚のものが混じる。日本の文化として、九は苦を連想させるため嫌われるのに対し、八は文字の形が末広がりで好まれ、名前に用いられたのだろう。
ヤツデスナヒトデは、ヤツデの葉よりさらに大きく、最大で60センチにもなる。腕の裏側には小さな足が無数に生えていて、これらを小刻みに動かして海底を移動する。ヒトデ類は一般に二枚貝の天敵とされており、北海道のホタテガイの栽培漁業では、ヒトデ類を駆除したのが成功の要因の一つとも言われる。しかしこのヤツデスナヒトデは他のヒトデも餌にするというから、有用な生物の天敵を食べてくれるという意味では有用な生物ということになる。むやみに駆除すれば良いというものではない。
そもそも、水槽の中でヒトデに貝を与えれば喜んで食べるが、海の中では貝たちもやすやすと食べられるわけではなく、元気な貝であればしっかり殻を閉じて砂に潜るし、イタヤガイなどは泳いで逃げたりもする。一方、環境が悪化すれば貝は弱り、ヒトデの餌食になるのだろう。ヒトデたちの主食は死んだ生物である。海の中で生き物が死ねば、これを効率良く片づけてくれるのがヒトデたちだ。ヒトデが多すぎるのは困るが、ヒトデ不足もまた困る。生態系のバランスを程よく保つような総合的な管理が、これからの漁業には求められると思う。
写真=2009年12月、舞鶴市長浜の水深3メートルで見かけたヤツデスナヒトデ。直径35センチ
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