大学1年の頃、水族館へ行って水槽の魚を観察しスケッチするという楽しい実習があった。その際、黄色地に黒の縞模様と愛嬌のある名前とが印象深かったのが、このキハッソクという魚である。本種はインド洋から沖縄あたりのサンゴ礁に分布し、まれに温帯域にも現れるというが、これらの海で潜水中に見た記憶がない。そんなキハッソクに、先日初めて、しかもここ若狭湾で遭遇した。
キハッソクという名の由来を調べてみると、「木を八束燃やして調理しても不味な魚」とある。ところが、実際に食べた人の話では旨かったとの説もあり、意見は分かれるところだ。魚の味は、季節と場所と人の好みにもよるものだ。いずれは自分の舌で確かめてみたいと思う。 外敵に襲われたキハッソクは、他の魚にとって有毒な粘液を出す。ちなみにこの粘液は人間が食しても無毒とのこと。黄色と黒の派手な模様は、「私は危険」という信号で、スズメバチやゴンズイのそれを思い起こさせる。危険を誇示する信号は海も陸も同じということか。
このキハッソクを見つけた場所は、高浜原電の排水口から500メートルの地点である。いつも潜水している音海のダイビングポイントは原電からは2キロほど離れており、そこでは南方系の魚やナマコが優占している。それではもっと温排水に近いところではどうなっているだろうか、と潜って調査したところ、このキハッソクが迎えてくれたというわけだ。
木を燃やして魚を料理することは、今の日本ではまれであり、電気調理器具が全盛の時代である。その電気を作るために核燃料を燃やした余熱で、熱帯魚のキハッソクが若狭湾で暮らしている。便利さに頼らなければならない我々に、愛嬌を込めてこの魚が黄色信号を送っているように、思えなくもない。
写真=2010年5月、高浜町神野浦の水深5メートルで見つけたキハッソク。体長15センチほど
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